町工場の「記憶」を未来へ。3Dスキャンで紡ぐ大田区のものづくりの歴史

製造業の街として長年親しまれてきた大田区で、町工場の歴史と技術を未来に残すための革新的な取り組みが進められています。それは、町工場の歴史や雰囲気を3Dスキャン技術でデジタル保存するプロジェクトです。

このプロジェクトは「町工場の記憶アーカイブ」と呼ばれ、東京工科大学の酒百宏一教授が主導しています。酒百教授は「この街のアイデンティティーである町工場の記憶を残したい」という思いから、2024年6月から3Dスキャン技術を用いた保存活動に着手しました。
使い込まれた道具や機械、床や壁に刻まれた傷跡といった“ものづくりの現場”の空気感を、立体的なデジタルデータとして忠実に記録しています

プロジェクトの第一弾として、88歳の熟練職人が一人で営む町工場「岩井製作所」が3Dスキャンで記録されました。塗装のはげた旋盤加工機械や鈍く光る鉄くず、年季の入ったダイヤル計器類まで、使い込まれた道具や機械が持つ独特の美しさが3Dスキャンによって緻密に記録されています。

「使い込まれた道具と機械には、使った人の息づかいが宿る。経年変化で生まれる美しさがある」と酒百教授は語ります。見る人の心に響くその”味わい”は、単なる技術や効率を超え、作り手の人生の軌跡と情熱がにじみ出た証といえるでしょう。

将来的にはVR(仮想現実)技術を活用し、工場内を実際に体験できるイベントの開催が構想されています。たとえ建物が失われても、その雰囲気を追体験できるようにすることで、地域の歴史や町工場の魅力を後世に伝えていくことが可能となります。

大田区の町工場3Dスキャンプロジェクトは、単なる形の保存にとどまりません。地域の歴史や人々の営み、そして、ものづくりの精神が宿る”美しさ”を先端技術を用いて、次の世代へ手渡しをしていく取り組みです。
私たちの街の誇りである町工場の記憶を大切に守り、伝えていくこのプロジェクトを心から応援するとともに、我が三信精機も、ものづくりの精神を未来へとつないでいけるよう、誇りを持って日々研鑽を重ねてまいります。