水素が拓く、日本のものづくり革命

近年、地球温暖化対策の重要性が高まる中、「カーボンニュートラル(脱炭素化)」という言葉をよく耳にするようになりました。地球温暖化を抑制するため、日本の製造業においてもカーボンニュートラルへの取り組みが急速に進展しています。特に「水素」を活用した技術は、大きな注目を集めています。

例えば、トヨタ自動車はアメリカで、廃棄物から「水素」「電気」「水」の3つを同時に生成する「Tri-Gen(トライジェン)」施設を稼働させました。ここで生成された水素は燃料電池車に、排出された水は車の洗浄に再利用されるため、資源を無駄なく循環させ、年間9,000トンを超えるCO₂削減効果を達成しています。「捨てるものを資源に変える」という、日本のものづくりの知恵を活かした優れた仕組みです。

日本製鉄株式会社は、CO₂排出量の多い高炉による製鉄の代替として、水素を使った製鉄プロセスの技術開発を進めています。実証実験では、従来の製鉄プロセスで発生したコークス(石炭)由来のCO₂排出量を約30%削減することに成功し、2040年の実用化を目指しています。鉄づくりの常識を覆す「水素製鉄」は、今後、耐水素特殊鋼材などを手がける素材メーカーにも波及し、新たな市場を創出することが予想されます。

キリンビール北海道千歳工場では、2026年から太陽光発電で作られた「グリーン水素」を使ってビールを製造する予定です。ビールづくりには大量の蒸気が必要ですが、その約4分の1を水素で作られた蒸気に置き換えます。これにより、年間464トンのCO₂削減が見込まれています。おいしさはそのままに、地球にやさしい「水素ビール」で乾杯する日が、そう遠くない将来に訪れることでしょう。

ものづくりの現場で進む「水素革命」は、環境対策のみにとどまらず、新しい製品・サービスの構築といったビジネスチャンスを生み出すイノベーションも加速させています。

企業の技術力が地球の未来を切り拓く—そんな希望に満ちた挑戦が、今まさに日本の工場で進行中です。
我が社も、持続可能性という観点から、機械の改造やオーバーホールに積極的に取り組んでいます。40年前の機械でも新たに命を吹き込み、型式が変更されたモーターやシリンダーにも独自の設計力で対応するなど、「作って終わり」ではなく「長く使い続ける」という日本のものづくりの真髄を大切にしています。これからも一台一台のオーダーメード機械に真摯に向き合いながら、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

未来の共生社会を体験!大阪万博2025で躍動する最新テクノロジー

大阪・関西万博が2025年4月13日についに開幕し、次世代技術の集大成ともいえる様々な先端技術が披露されています。会期は10月13日までの半年間、参加する国・地域は約160に上ります。
特にAI技術とロボットを軸とした展示には多くの関心が寄せられており、来場者は人間とロボットの新たな関係性を探る体験を楽しむことができます。

石黒浩教授がプロデュースする「いのちの未来」パビリオンでは、約20体のアンドロイドと30体弱のロボットが展示され、「いのちを拡げる」をテーマに50年後の未来社会を表現しています。高度なAIシステムを搭載したアンドロイドたちは、来場者との自然な対話を実現しながら、「人間とは何か」という根源的な問いを静かに投げかけます。

また、会場全体を舞台に展開されている「ロボットエクスペリエンス」では、19の企業・団体から約50機のロボットが参加し、施設内での搬送、案内、清掃、警備など、さまざまなサービスを提供しながら、“ロボットと人が共に生きる社会”の実証実験が進められています。例えば、視覚障がい者を目的地まで自動で誘導する「AIスーツケース」は複数台が同時運用されており、実用化に向けた取り組みが注目されています。

こうしたロボット技術やAIの進化は、製造現場にも大きな影響を与えており、今後ますます人と機械が協調する新しいものづくりの形が広がると考えられます。 当社三信精機が製造する全自動機械も、現時点ではプログラム通りに動作しているかを人の目で確認する必要があります。しかし近い将来、この確認作業を人に代わって担うロボットが登場し、製造現場の自動化レベルを飛躍的に高める日もそう遠くないでしょう。

大阪・関西万博では、人とAI・ロボットが共に未来を創っていく社会の実現を肌で感じることができます。人と技術が共に歩んできたこれまでの歩みの先に、今もなお続く進化のスピードと広がりには、驚きとワクワクが尽きません。

子どもから大人まで幅広い世代が楽しめる展示が豊富に用意されているこの貴重な機会を、ぜひご家族揃って体験してみてはいかがでしょうか。子どもたちの目に映る未来の姿が、きっとまた、新たな夢や希望を育むきっかけになるはずです。

宇宙から拓かれる、未来のイノベーション

2025年3月15日、日本の宇宙飛行士・大西卓哉氏を乗せた宇宙船「クルードラゴン」がアメリカから打ち上げられました。大西氏は国際宇宙ステーション(ISS)に到着後、約半年間滞在し、日本人として3人目となるISS船長を務めます。

今回のミッションでは、日本の実験棟「きぼう」にて、多岐にわたる先端技術の実証実験が予定されています。大西氏は、微小重力下というISS特有の実験環境を最大限に活用することに意欲的であり、科学の発展や将来の宇宙探査、そして地上での新素材開発や新薬開発などにつながる様々な実験に臨みます。

例えば、閉鎖空間となるISSに蓄積された二酸化炭素を除去する装置の実験は、将来の有人月探査に関連する環境維持に不可欠な技術の獲得を目指しています。
また、半導体材料となる結晶生成実験では、微小重力環境を利用することで、地上では実現困難な高品質の材料開発が可能となります。この実験から得られる知見は、地上での半導体製造技術に応用できるでしょう。

極限環境の中で、未知の課題に前向きに挑戦し続ける大西氏の姿は、私たちものづくり企業にとって大きな励みとなり、どんな革新的な技術やアイデアが宇宙から生まれてくるのか、ワクワク感を感じさせてくれます。
失敗を恐れず、常に挑戦し続ける姿勢こそが、技術革新と社会貢献の原動力です。この宇宙からの挑戦に学び、私たちも従来の枠を超えた新たなイノベーションの創出に挑戦し続けたいと思います。

ロボットで蘇る恐竜時代、古代生物が語る未来への展望

かつて地球を支配した巨大生物、恐竜。その姿を模した「恐竜ロボット」は、古生物学へのロマンと最先端技術が融合した、魅力あふれる存在です。

20世紀後半、恐竜ロボットは主にエンターテイメント用途として開発され、遊園地や博覧会などで来場者を楽しませていました。しかしこれらのロボットは、機械的な動きで恐竜の姿を再現することに主眼が置かれており、現代の目で見ると、その動きはややぎこちない印象を与えます。

しかし、技術革新により恐竜ロボットは大きく進化しました。21世紀に入り、コンピュータ制御技術やセンサー技術が飛躍的に進歩するとともに、よりリアルで複雑な動きを模倣した動作や、インタラクティブな機能を備えるようになりました。
さらにAI技術が進化したことで、音声認識や学習能力を備え、観客の言葉に反応して対話が可能となったり、人間との対話や動きのパターンを学習し、よりスムーズな行動が出来るようになりました。

教育現場においては、化石や映像だけでは伝えにくい恐竜の生態や動きを、子供達はまるでSFの世界が現実となったかのような体験をしながら、興味深く学ぶことができます。
また、ロボット工学の分野では、恐竜の骨格や筋肉の構造を模倣することで、新しい歩行メカニズムや駆動システムの開発に繋がる可能性も期待できるでしょう。

恐竜ロボットは、エンターテイメントから教育、研究、そして実用まで、幅広い分野で私たちの未来を豊かにする、非常に興味深い技術です。
太古の恐竜たちが、現代の科学技術の粋を集めたロボットとして蘇り、新たな価値を生み出すというのは、まさにロマンと驚きに満ちていますね。

人に寄り添う、稲穂型歩行支援機

名古屋工業大学の佐野明人教授らの研究チームが、動力を必要とせず、人の歩行を支援する「稲穂型歩行支援機」を開発しました。
従来の歩行支援機「ACSIVE」がばねによる直接的な力で脚を補助するのに対し、「稲穂型歩行支援機」は、ロボットの腰部に取り付けられた重りの上下運動を活用し、間接的な力で歩行を支援します。

具体的には、歩行時の上下運動に伴い、腰に装着された重りがピアノ線を稲穂のようにしならせ、その反動を利用して脚の動きを補助します。この仕組みによって歩行リズムが整い、足取りが軽くなり、人が本来持つ自然な歩行能力を引き出すことが可能です。

この技術の特徴は、「装置の力に頼るのではなく、自分の力で歩ける」という実感を利用者に与える点です。これにより、高齢者や障害者の方々の自信を高め、さらなる歩行への意欲を引き出します。稲穂型歩行支援機は、人間が持つ可能性をそっと後押しし、歩く楽しさと未来への希望を提供する象徴的な技術と言えるでしょう。
また、この技術は「人間中心のものづくり」の重要性を示す好例でもあります。

AIやロボティクスなどの先端技術が急速に発展し、便利さや効率性が進む一方で、「稲穂型歩行支援機」のように、人間の自立性を尊重し、五感に響く技術が私たちの「人間らしさ」を守ってくれるのではないでしょうか。今後、このような人に寄り添うアプローチがますます重要であると感じています。

我が三信精機も、人間らしい生活を支えるものづくりを理念として掲げ、社会に貢献する技術と製品の開発に引き続き力を注いでまいります。

共創を紡ぐ出会い、大田区からスタートしましょう

2025年2月、大田区蒲田で「Meet New Solution in OTA 2025」が開催されます。
このイベントは、社会課題を解決する新しいソリューションを生み出す企業が、大田区の町工場やベンチャー・スタートアップをサポートする企業との出会いを通して、新しいイノベーションを創出し、持続可能な未来を実現していくことを目的としています。

大田区の町工場では、個々の工場が高度な技術力と豊富な経験を持っているだけではなく、それぞれの工場がどのような技術や設備を持っているかを熟知しており、必要に応じて互いに協力し合う『仲間まわし』の文化が根付いています。地域全体としての技術力の高さが、ベンチャー企業の独創的なアイデアを形にするための試作品製作や量産化を力強くサポートします。一方、ベンチャー企業は、斬新な発想とスピーディーな事業展開で、町工場に新しいビジネスチャンスをもたらします。

このように、大田区では町工場とベンチャー企業がお互いに協力し、共創していくための理想的な環境が整っているため、「ベンチャーフレンドリーのまち」として知られています。つまり、新しいことに挑戦する企業にとって、とても心強い場所なのです。

共創を成功に導くために大切なことは、自社と共通のビジョンをもち、自社に不足するリソースを補完できるパートナーとの出会いだと感じます。「Meet New Solution in OTA 2025」は、革新的なアイデアと大田区のものづくりの技術力が融合し、新たな価値創造の扉を開く、まさに「出会い」の場となることでしょう。

2025年、新たな挑戦の幕開けです。
私たち三信精機も、同じものづくりに携わる企業として、このような出会いを通して生まれるイノベーションを心から応援しています。皆様にとって飛躍の一年となるよう、本年も全力で取り組んでまいります。

日本の航空宇宙技術遺産がつなぐもの

国立科学博物館が所蔵する純国産民間輸送機「YS-11」と、純国産の固体ロケット開発の礎となった「ペンシルロケット」が、今年4月に日本航空宇宙学会から「航空宇宙技術遺産」に認定されました。

日本はかつて、世界屈指の航空機大国と評されるほどの技術力を誇っていましたが、第二次世界大戦後、航空に関する一切の活動が禁じられ、多くの航空機や関連技術が失われました。
それから7年後の昭和27年、この制限が解除され、純国産の航空機を開発する取り組みが国を挙げて始まりました。その成果の一つが、民間輸送機「YS-11」です。

「YS-11」は量産型として初めて製造された機体であり、「ペンシルロケット」は日本のロケット技術の出発点といえる重要な実験機です。この2つの機体は、日本が航空機やロケットの技術を発展させてきた歴史を象徴しています。
今回の「航空宇宙技術遺産」への認定は、これらの技術開発に尽力した先人たちの努力や工夫を広く伝えるきっかけとなり、次世代を担う技術者や研究者たちにとっても、貴重な学びの機会となることでしょう。

こうした技術の積み重ねがあるからこそ、私たちが普段利用する旅客機の航空技術や、ロケットを活用した宇宙開発が飛躍的に進化しているのだと感じます。
今後も日本の技術が世界で輝き続けるために、先人たちの知恵を受け継ぎながら、先端技術への挑戦を続けていくことが大切です。

夢を形にする未来の科学技術

空を自由に飛べる「タケコプター」や、どこへでも行ける「どこでもドア」など、
誰もが一度は「ドラえもんのひみつ道具」を使ってみたいと夢見たことがあるのではないでしょうか。現代の科学技術は、かつては空想の産物と思われていたドラえもんのひみつ道具を、現実のものに近づけつつあります。

たとえば、食べるだけでどんな言葉でも通じるようになる「ほんやくコンニャク」は、
ポケットサイズの翻訳機やスマートフォンアプリ、さらにテレビ電話を活用した通訳サービスなど、言葉の壁を取り除く技術によって、すでに実現できていると言えるでしょう。

また、写真の料理をひと口だけ味見できる「味見スプーン」は、NTTドコモが現在開発中の
「FEEL TECH(フィールテック)」によって、その実現に近づいています。
フィールテックは、味覚、嗅覚、触覚といった五感を共有できる技術で、この技術が確立すれば、映画やドラマに登場する料理の味を、家や映画館で体験できる日が来るかもしれません。
新しいエンターテインメントの楽しみ方や、より豊かなコミュニケーションの形が生まれる可能性に胸が高鳴ります。

多くの科学的な発明や技術は、かつて誰かが空想した未来像や夢から始まっています。
ドラえもんのひみつ道具は、未来の科学技術が私たちにもたらす無限の可能性、そして私たちが、その技術とどう向き合っていくべきかを考えるきっかけを与えてくれる存在です。

パラスポーツの進化を支えるテクノロジー

2024年夏のパリ・オリンピックでは、日本代表選手が素晴らしい活躍を見せてくれました。現在、パラリンピックが開催中です。さまざまな障がいを持つパラアスリートたちが、創意工夫を凝らしながら限界に挑む姿は、多くの人々に感動と勇気を与えるとともに、共生社会の実現に向けた意識改革を促しています。

近年、スポーツ義肢や装具、用具は、競技や選手の特性に合わせたテクノロジーの導入により、目覚ましい進化を遂げています。この技術革新により、これらの用具は単なる補助具の役割を超え、パフォーマンスの可能性を広げるための強力なツールとして機能しています。

たとえば、3Dスキャナーやモーションキャプチャーなどの機器を使って、選手が感じる微細な感覚を「見える化」することが可能になりました。これにより、選手の体と一体化した精度の高い用具を、従来よりも迅速に開発できるようになっています。
さらに、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)といったデジタル技術も、パラスポーツの訓練やリハビリにおいて重要な役割を果たしています。これらの技術は、実際の競技場を再現したり、特定の動作を繰り返し練習したりする際に非常に有用です。

今後も、パラアスリートの記録向上にテクノロジーの進歩が大きく貢献していくことは間違いないでしょう。パラアスリートが魅せるパフォーマンスの進化に日本のものづくりの力が大いに寄与することが期待されます。

広がるロボットの技術進歩と可能性

ロボットの開発・導入を促進する専門技術展「関西ロボットワールド2024」が5月30日・31日にインテックス大阪で開催されました。

今回の展示会では、ロボットメーカーだけでなく、AIやシステム関係の出展が多く見られました。特に、ロボットに動作を教え込むティーチングや専門技能の省力化に焦点を当てた展示が多く、専門知識がなくてもロボットを活用できる環境作りが進められていることを感じます。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の展示では、災害現場や宇宙空間などのデータが収集しづらい環境下で、コンピュータグラフィックス合成画像を用いたAIによる障害物検知など、宇宙空間におけるロボット技術の応用が示されてました。

関西ロボットワールド2024は、AIやシステム技術と融合した次世代ロボットの可能性を広く示しました。これらの技術は、人手不足という社会課題の解決だけでなく、新たな産業の創出や、私たちの生活の質の向上に貢献することが期待されます。

私たち三信精機も、現場の工程改善から未来社会におけるロボットの可能性を広く探っていき、人とロボットの共生を目指していく所存です。