今年の「未来技術遺産」は。

2008年から始まった科学技術の歴史上重要な成果として保存する、重要科学技術史資料(未来技術遺産)が今年も15件登録されました。

1968年に発売され、ハイビジョンテレビが普及する先駆となったソニーのトリニトロンカラーテレビが登録されました。また、産業技術総合研究所と川田工業(現、カワダロボティクス)が、2003年に開発した二足歩行ができる人間型ロボット「HRP-2プロメテ」が人間と協働できるロボットの先駆けとなったとして登録されています。

1989年に登場した富士フイルムのカラーネガフィルム「フジカラーリアラ」が従来のフィルムに4つ目の層を導入した鮮明な色彩を再現したとして登録されたのですが、デジタル映像の今、30年一昔とはいえ“技術遺産”なのですね。今年ですでに240件が登録されたそうですが、こうした技術を基礎に新しい技術が誕生していくのですから、まさに“日進月歩”ですね。

オノマトペでロボット開発

オノマトペとはフランス語で、擬声語、擬音語、擬態語と訳されていますが、自然界の音や声、動きを音(おん)で象徴的に表した語です。

“ゆらゆら揺れる”や“クスクス笑う”や“シクシク泣く”などの表現で、日本語オノマトペ辞典には4.500語も記載されています。赤ちゃんが発する“ワンワン”や “アブアブ”などもオノマトペですが、こんな簡単な言葉を使って「生活支援ロボット」の研究開発が進められています。“ザラザラ”などの感触を表す言葉は、外国の赤ちゃんでも認識することができるのだそうです。マンガの世界では一歩先を行くオノマトペですが、世界共通の言語になるのでしょう。少子高齢化が進むなか、家での生活をサポートしたり簡単なコミュニケーションや赤ちゃんでも動かせるロボットの開発が進んでいます。

当社でも無声だった産業ロボットに音声を組み合わせ、誰でも認識できる作業の標準化や安全管理に力を入れています。

想い出の雨傘と技術革新

亜熱のような天候で突然の豪雨にあわててコンビニへ飛び込み500円のビニール傘に、お世話になっています。突風やゲリラ豪雨で、気が付くと傘の技術革新も進んでいます。

日本郵便が販売する“折れてもOKの傘”は骨のつなぎ目を工夫し特許構造で、たたんで開くと元通りになるのです。傘メーカーのサエラの傘は、風に強い構造が特徴ですべてのパーツが強度と弾力性に優れたプラスチック製で、風速32mの風でもしなやかに曲がって受け流し、風がやめば元の形に戻ります。

傘の技術革新の一方、売った傘は永久に保証しお直しする平塚の「こばり」店では親子二代が無料でお直しし、40年以上も修理して使っている常連客もあるそうです。

1964年、第14回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞したフランスのミュージカル映画、「シェルブールの雨傘」を思い出しています。

せつない恋物語ですが、雨傘の夢と技術革新が妙に交叉します。

オニヒトデ駆除ロボット出陣!

地球温暖化は世界各地で様々な問題を提起していますが、科学の知恵を集結する時代なのかもしれません。温暖化が海水温を高め、サンゴ礁を食い荒らすオニヒトデが繁殖し白化現象の被害が広がり生態系が脅かされています。沖縄では年平均約10万匹のオニヒトデを駆除していますが、ダイバーが1匹ずつ駆除するのではとても間に合わずその上、捕まえる時や陸に揚げるときに猛毒のトゲに刺される事故も起きています。

豪州のクイーンズランド工科大学ではオニヒトデを退治する潜水ロボット「COTSBOT」コッツボットを開発しオニヒトデを自動検出し、致死量の胆汁酸を注射して駆除する実証試験を始め99%の制度でオニヒトデを検出し成果を出しているそうです。世界最大のサンゴ礁、グレートバリアリーフの減少の40%がオニヒトデが原因と言われていますから、オニヒトデ駆除ロボットの活躍が期待されています。

*COTSはオニヒトデの英名の略

『“軟らかいロボット”への挑戦』

“軟らかいロボット”-という新分野のソフトロボットが注目を集めています。

現在、活躍している均質な製品や部品の大量生産に対応し同じ作業をいち早くこなす硬いロボットアームに対し、卵をつかんだりトマトを収穫したりする人の手のような作業をするロボットの活躍が期待されています。

軟らかいモノを挟んでつかむ「バインド式アーム」や、人の動きを支援する「パワースーツ」、違和感が少なく装置できる「人工筋肉」と呼ばれるスーツも活躍しています。先端にカメラを取り付け、障害物に当たっても壊れず、対象を傷つけない「風船型アームロボ」が建物内の配管を撮影したり、医療現場での活用も期待されています。

「機械工学だけでなく、素材や電子制御、バイオの研究者が集まり“ソフトロボティクス”を発展させたい」と語られています。

当社も時代の要請と“ほどよい加減”のソフトロボ技術の発展に挑戦してまいります。

人工衛星でIT漁業

蒲田は「下町ロケット」のモデル工場の町で、当社も含め精密機械の製造工場が多い町です。今、地球観測ができる小型人工衛星の商業利用に注目が集まっています。

こうした人工衛星で潮流や漁場分析をして、効率よい操業をするだけでなく漁業資源の保護にも取り組む「スマート漁業」で成功している町があります。

北大北極域研究センターが06年に開発した「トレダス」は、人工衛星でプランクトンの量や潮の流れ、海水温を計測し、過去の漁場データと合わせ魚がいる場所を予測し、衛星通信で情報を遠洋漁船に配信し効率の良い漁を推進しています。稚内市の宗谷漁港では北海道立総合研究機構と北海道大低温科学研究所が09年に開発した短波レーダーによる潮流観測と過去のデータを参照して、1日の平均的な潮流の向きと速さを1年先まで知らせる潮流カレンダーでミズダコの「たる流し漁」生産額全国トップのIT漁業で注目されています。

考古学で活躍するロボット

琵琶湖の底、水深60mに眠る「葛籠尾崎(つづらおさき)湖底遺跡」の調査がロボットを使って立命館大学びわこ、くさつキャンパスで進められています。ダイバーが水流が強い深い湖底で調査するのは危険で、低価格で水深100mまで観察でき、考古学者が一人で操縦できる小型軽量ロボットの開発が進んでいます。

なぜこんな深い場所に約1万年前から11世紀までの土器があるのか、なぞの多い遺跡です。

誰がこんな深い所に土器を捨てたのか、それとも儀式だったのか、船が転覆したのか、地震で集落が沈んだのかと謎はつきません。

今や考古学には科学技術は欠かせませんが、この湖底遺跡の調査では考古学を中心にロボット工学や文学部、自然科学、芸術学科も加わって、人間はどう生きてきたのか、土器についた小さな種の成分や植物学と幅広い課題から共同研究が進められています。人間の歴史の解明に文系と理系が連携する時代、当社もこんな技術開発に挑戦していきます。

「“一人家電メーカー”中沢優子さんの挑戦」

たった一人で個性的な家電製品を少量生産するベンチャー起業「UPQ」(アップキュー)を知っていますか。女性ユーザーの支持を集めて、コンパクトにたためる原付免許で乗れる電動バイクやアイロン、電気釜とヒット商品で評判です。大学は経済学部で機械オンチですがそれを逆手にとって「機械オンチがメーカーに入れば、ユーザーの気持ちが代弁できる」と、07年カシオ計算機に入社。携帯が好きで念願の携帯製品の企画を担当し「美撮り」機能付き製品がヒットする。が、メーカーの市場撤退を機に12年、会社を退職し15年7月UPQを起業します。その1か月前に、香港の家電見本市で目をつけた中国のスマホ工場に単身乗り込み試作を交渉し、スマホのタッチパネルを応用した透明なキーボードを開発し注目されます。常にお客さま目線の発想とたくさん売ることを考えず、新しい常識に挑戦する34歳の主婦社長・中沢優子さんに日本の製造業の新しい未来を感じます。

新しい観光名所「工場見学」

ままごとの進化形「キッザニア」のあこがれの職業体験が人気ですが、身近な町工場の見学や体験教室も人気です。大田区でも「おおたオープンファクトリー」で工場見学や体験教室が公開されています。伝統の職人技や宇宙科学を支える技術を間近で見たり経験することで次世代の担い手が育ってくれることを願っています。最近では家族で体感するケースが増え埼玉県八潮市の文具製造「イワコー」さんの“おもしろ消しゴム”工場見学が年間400回、1万人以上の見学者が訪れる地域の観光名所になっています。高温で溶かされて軟らかくなった消しゴムの材料を触らせてもらった子どもたちから歓声が上がるそうです。

創業者の岩沢さんは「子供は国の宝。断るなんて」という言葉に感動します。当社も創業者渡辺の故郷から高校生たちが職業学習を兼ねて工場見学に訪ねてくれますが、蒲田の技術を次の世代につないでくれれば嬉しい限りです。

『愛されるロボット犬「AIBO」に学ぶ』

ソニー生まれのロボット犬「AIBO」が誕生したのは1999年、この世界初のエンターテイ

メントロボットは発売20分で3千体を完売し、累計約15万体が売れたが事業としては成功せず、2006年に生産を終了、14年には修理サポートも終了し、15年に国立科学博物館が未来技術遺産として登録しています。

作家の山内マリコさんの短編「AIBO大好きだよ」では“機械と人が心を通じ合うことに少しも違和感がなく、人間と同じくらい上等なハートがある”と書いています。

愛されるAIBOは、17年たった今もオーディオ機器などを修理する技術者の舟橋浩さんのもとに修理の依頼が急増しており、お客様は修理ではなく“治療”といい、“入院”待ちも400体で故障したAIBOを捨てられず、解体した部品を“献体”として申し出があるそうです。

機械を作る私たちも、一つひとつの製品に限りなく“愛”を感じていますが、何を心や命と呼ぶかは私たちが決めるのですね。